提供:北海道住宅通信社
道産材を使った「地材地消」の家づくりに取り組む工務店が増えています。 道が04年度から実施した道産材利用促進対策もひとつの契機となって、道内各地で木材業者、設計事務所、工務店が連携して軸組に用いた道産材を見せる構造見学会も数多く開催されていますが、「地材地消」の意義やメリットは未だ本道の住宅業界に十分浸透してはいません。 リレーインタビュー形式で「顔の見える家づくり」を再考してみました。 |
第1回 E・F・Hコンサルタント(倶知安町) 榊 政信 さん
地域社会を守る「地産地消」の家づくり
―地元から姿を消しつつある建築技能を継承する起爆剤に―
――道は2004年度から、道産材の産地表示や軸組材の無償提供など、道産材利用促進対策に取り組んでいますが、それらを実施する補助対象事業者(連携グループ)のひとつ、「Do木材倶楽部」に参画しています。2005年までの2年間で、3棟の「カラマツ住宅」を建てました。
メタルフィット金物と構造用合板を用いた在来木造住宅で、構造材は全て羊蹄山麓のカラマツを使った集成材です。プレーナー掛けされた梁や柱は表しのまま。外廻りの破風やテラス、壁や天井の仕上げにも地場産のカラマツを併用しています。
外壁の羽目板は道南スギ。間柱などの羽柄材はトドマツ。床のフローリングは床暖房用に加工されたナラの無垢材で、いずれも道産品です。内装仕上げは稚内産の珪藻土やタイルなど、全て自然素材を使っています。
開口部は木製の断熱サッシ。積丹で採れた60年生カラマツ材のオーダーメイド品を使ったこともあります。外部の保護塗材は、アースカラーの色合いや安全性・信頼性を重視して、ドイツ製品を採用していますが、出来れば国内製に変えたいと思っています。
屋根からの雨垂れを跳ねさせない犬走りには小粒の豆石ではなく、カラマツを製材する際に出るチップを敷きました。チップなら周囲の畑に紛れ込んでも土に戻ります。踏んだ際の弾力性に富んだフワフワ感も建て主に好評です。
――3棟の坪単価は平均60万円前後。道産の木材や木製品にこだわることで割高になる意識はありません。樹種強度の高いカラマツの集成材を使うことによる構造的な強さや、プレカット加工した際の仕上がりや精度の高さなど考えれば、十分に採算が合うと思います。室内の仕上げに表しを用いることで、デザインの幅は広がり、施工手間も軽減できます。
どこに住まいづくりの価値をどこに置くかによって見方は異なりますが、建て主の満足度こそが最大の価値でしょう。念願の我が家を実現した建て主が友人や知人に何を自慢するか、そのひとつが「地材地消」へのこだわり。実際に地場のカラマツ山林や製材する工程を目にすることで、我が家への愛着が強くなっていくと思います。
――道産の木材・木製品は探せば手に入りますが、近くにないのが難点。その情報も建築する側が欲するものになっていません。製材業者も自社以外の素材や製品に関する情報に疎いのが実情です。
森林組合や製材工場にとっては、安定的な需要が確保できる本州にラミナを移出する方が採算面では有利でしょうが、端材でタルキやヌキを加工し、地場工務店への販路を確保してほしいものです。ランバーコアのように、階段の段板や造作用の建具・家具に使える安価な集成板などがあれば、もっと地場産品に目が向くと思います。
――最近、地元から建築職人が姿を消しつつあります。倶知安町内にも建具職人がいなくなりました。畳職人も風前の灯。既製品を使うことに慣れた結果、設計図面を見て内部建具を造作できる職人を近隣の町村にまで探しに行かねばならなくなりました。
「地材地消」は地域社会を守る手法のひとつ。地場の山林で伐採した木材を使って住宅を造ることで、地元業者に金が回り、家づくりの技能が引き継がれると思います。
ただ、地縁・血縁の色濃い地方でも隣近所の横のつながりが薄れているのが現状です。マスメディアが流す情報や宣伝に眼を奪われ、家づくりの本当の価値を比較することなく、高価な買い物をしています。
「地材地消」の地道な取り組みを通じて、地場の工務店が提供できる家づくりの価値をアピールしていきたいと思います。
(写真説明)
左:外壁の羽目板にもカラマツ材を使った「カラマツ住宅」
右:暖炉のあるリビング空間。
榊 政信(さかき・まさのぶ)さん 1954年生まれ、後志管内倶知安町出身。明治大卒。横関建設工業に入社。1992年に横関グループの設計事務所、イー・エフ・エッチコンサルタントに。道建築設計事務所協会後志支部長など公職も多い。 |
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