(株)長谷川建築設計事務所 様
ホテル・ラーチ(南富良野町) 落ち着いた雰囲気のホテル |
道産材の住宅・施設づくりをすすめる釧路の設計士ネットワーク「北海道木質構造開発協議会」事務局を努める(株)長谷川建築設計事務所の長谷川さんをお伺いしました。
北海道木質構造開発協議会
北海道木質構造開発協議会というのは、長谷川さんたち釧路の建築設計事務所数社が集まって平成5年に発足したネットワークで、『木材の新しい使い方を見つける』ために、先進的な取組を行ってきている。代表的なのが平成7年に竣工した「昭和まきばタウン(釧路市昭和)」で、地元の木材工場と協力し、分譲住宅を展開した。昭和まきばタウンでは構造材に地元のトドマツを原料とする集成材、外壁にも地元のトドマツを原料とする羽目板を使用した。当時、集成材はまだ普及していなかったころ。ただ集成材を使うだけでなく、その原料が地元の森林から産出されたトドマツであり、地元の木材会社が加工したものであることは非常に先進的な取組であった。
また、外装材についても、“汚れる”“腐る”などの理由で木材を敬遠する建設関係者が多い中、デザインに工夫を凝らし、木材の「あたたかい」という良さを活かした外装となった。もちろん地元の木材を地元の木材会社が加工したものである。
昭和まきばのタウン エントランス・エクステリアに木材を使用し、個性的な住宅が並ぶ |
地元の材に付加価値を・・・
地元の山ではトドマツ・カラマツを主体とする人工林が成熟してきたが、用途は「下地材」で、強度や耐久力が求められる構造材にはアメリカなどからの輸入材を、美しさが求められる内装材には広葉樹材を使うのが普通であった。市場経済の常識であるが、商品の価格は市場で決まる。木材工場は、木材の加工にかかった費用を下げても市場で売れない場合は、原料の木材の価格を下げざるを得ない。これでは山をここまで育ててきた経費がまかなえない。経費をまかなうためには、付加価値の高い利用を進めることが不可欠である。
そこで生まれたのが集成材と羽目板である。高度経済成長期に植林された山が成熟してきつつあることや、乾燥技術の発達などにより木材の狂いを押さえられるようになってきたことも追い風だ。あとは前例を作って、普及するだけ―――という考えで、地元の木材加工業者と協同で、構造材や羽目板に地元の山から取れた材を原料とした製品を使った住宅を建築・分譲した。
工夫に工夫を重ねて
当時の集成材の価格は1m3あたり16万円もしたため(今は9万円を下回る)、大工の手間がかからないような工法を考えたり、集成材のかんながけを、通常四面かけるところ、表に出る一面だけにしたり、価格を抑えるための取組も行われた。昭和まきばタウンは、おおむね成功し、その後の釧路の住宅建築に大きな効果があった。今も定期的に住民との対話や点検を行い、アフターケアの模範となっている。
その後も、北海道木質構造開発協議会は、公共施設の木造化の地域経済に与える効果の検証や、市町村へのPR。シックハウスについての勉強会など、地域の建築設計の先導として、さまざまな取り組みを進めている。
北海道開発局釧路開発建設部HPより |
北海道とともに育ってきたカラマツ
長谷川さんは「地域の産業は地域で成り立たせなくてはいけない」と言う。今でこそ、「産消協働」「地産地消」「地材地消」などと言う言葉が広まっているが、長谷川さんは、その理念をかなり以前から重視してきた。この理念を達成するにはそれぞれが、地域社会の一員として、自分の役割を認識し、実行することが必要。建築設計士である長谷川さんは、自分の役割を「新たな木質構造の開発と実践」に見出し、実行してきたのだ。「やっぱり昭和まきばタウンを作っていたころが一番だったかなぁ」とおっしゃるものの、長谷川さんの挑戦はまだまだ続く。今後は木の「ぬくもり」を活かしたシックハウス対策やグループホーム建築などに取り組みたいと言う。是非、取り組んでいただきたいし、私たちも私たちの役割をきちんと実行しなくてはいけないと、改めて思った。
参考
〔(株)長谷川建築設計事務所 様〕〔M7・8パネル館〕
『地元の木材店』
〔丸善木材(株)〕〔カラマツはどんな木?〕
〔丸善木材(株)(ウッドプラザ北海道内)〕
〔厚浜木材加工協同組合〕
〔厚浜木材加工協同組合〕(ウッドプラザ北海道内)
〔厚岸木材工業協同組合〕(ウッドプラザ北海道内)