
CLTを使い、事業を体現できる施設にしたい
株式会社イトイグループホールディングスは、
本社建て替えの際「地元の木を使って、事業を体現できる施設にしたい」という思いからCLTを使って建て替えを実施しました。
企画の特徴
CLTは、近年国が普及に取り組んでいる建築材であり、北海道では北海道立総合研究機構が北海道産木材を使用したCLTの技術開発に取り組んでいます。長らく木材を扱ってきたイトイ産業では、自社の社屋建設を通して多方面へ技術、工法を発信することを地域貢献と捉え、CLT造での建築計画を進めました。
本建築の構造材用CLTは、置戸町産・トドマツを岡山県にて加工し利用しているほか、愛別町産トドマツとタモを1階の一部家具に、階段にはナラをそれぞれCLTに加工して用いることで建築以外への発展的利用も試みています。
設計・施工特徴
意匠コンセプト
外壁、2階床、屋根にCLTを用いており、CLTパネルを可能な限り室内外に表しにし、木の質感と温かみを感じられる空間を目指しています。積雪荷重に対する合理的な壁構成の検討、CLT壁パネルの形状と開口部形状が表裏一体となった特徴的な壁構成を室内外に露わにすることで地域のリーダー企業としてのアイコン的な働きを担える立面計画となっています。
執務空間は、一体的な無柱空間とすることによりフロア全体が見渡せ、南側の森林に向かって大きく開いた開口からの自然光や換気を共有することができます。
広い一体空間の中でオフィス部分を取り囲むように基本諸室を配置、今後も従業員の増員や部署変動に伴うデスクレイアウトの更新にも対応可能な柔軟性のある空間を実現しています。
CLTの特性を活かした2階東側の梁の無い片持ち屋根下には、テラス空間として社内レクリエーションのほか、ヨガ教室等地域住民へ開放されています。
構造コンセプト
CLT構造は、発展期を迎えており、多くの人たちが新たな空間表現、建築の構築の方法を日夜、思考し実践している最中です。
本建築の構造計画としては、執務空間にて木の温もりが感じられるCLTパネルによるモノコック構造です。
執務空間の構造計画は、現状のCLTの最大積層数が7プライ(t=210)であるため、積雪荷重が荷重としてプラスされる北海道では不利となるがその解決策として近代以前の日本の伝統木造にならって、CLTパネルを重ね合わせた「重ね梁」ならぬ「CLT重ね板」で必要な剛性を確保し、執務空間をCLTパネルのみで構成しています。CLTパネルの接合には、Steel梁を配して、全体として凸凹の少ないモノコックの執務空間となることを意図しています。
CLTパネルの接合は、CLT構造のネックである「重たい」接合金物感を軽減するために要素実験を行い、引き寄せのできる全ネジボルトによる木の連続性を損なわない接合方法としています。
Data
施設名/ 株式会社イトイグループホールディングスCLT社屋
所在地/ 士別市朝日町中央4025番地
構造及び階数 / 木造(CLT造)2階建て
建築面積/ 450.63㎡
延床面積/ 464.84㎡
竣工年月日 / 令和2年2月25日
建築主/ 株式会社イトイグループホールディングス 代表取締役 菅原大介
設計者/建築:(株)遠藤建築アトリエ 構造:(株)安藤耕作構造計画事務所 設備:(株) トーアキャドシステム
施工者/株式会社イトイ産業
[道産木材の使用量と施工状況]
・構造用CLT(壁・天井・屋根):約244.395㎥(トドマツ)
・家具用CLT(階段段板・机天板):約1.5㎥
・外壁羽目板:307.3㎡
[資材の調達方法]
・構造用CLTは置戸町のトドマツを使用。
・家具用CLTは、道産トドマツとタモをオフィス机天板に奈良を階段段板に使用、加工は愛別で行った。
Builder’s Voice
[建築主]
当社は造林業から始まりました。それから建築業として70年、本社の建て替えを考えた時に、原点復帰、つまり地元の木を使って、しかも事業を体現できる施設にしたいという思いからCLTを使ってみることにしました。ちょうど環境省の補助金メニュー の中にCLTがあり、そこから実施に向けてスタートし、調べていくうちに、その構造の良さにハマっていきました。しかし、その頃は道内で製造できるサイズがまだまだ小さいものだったため、やむを得ず岡山の会社まで材料を運び込み、加工をお願いすることになりました。コスト的にも少々無理をしましたが、 道産材を使ってこれだけのものができることを発信することができ、取材や見学が増えました。結果的にも当社のブランディングやリクルーティングにも繋がっています。カフェスペースや机の天板にもCLTを使用したことにより、全体的に統一感があり、木の香りもあってリラックスできると社員にも好評です。
[株式会社イトイグループホールディングス 代表取締役 菅原大介]
[設計主]
長らく士別市内の朝日町で木材加工や土木工事、流木の処理を行う会社の新社屋新築プロジェクトです。地域社会への貢献とSDGsへの取組みを念頭に置く企業理念を反映させた社屋を目指しました。構造には北海道産のトドマツを加工したCLTを使用。バイオマスボイラーによる床暖房を採用し、グループ企業内で地域の流木を収集して生産する木チップを熱源としています。敷地周辺地域において同様の規模・工法の建築は無く、自治体の工法への関心も高いため見学者への公開を積極的に行うことで工法への認知を広げ、後の開発や研究を後押しするモデル的側面を有しています。CLTパネルは、外壁、2階床、屋根に使用して1階天井架構は短辺方向最大9mスパンのパネルを一部2枚重ねにし、風通しの良い無柱の大空間オフィスを実現しました。壁パネルは台形状にし、室内外に形状を露わにすることで地域内での発展に注力する企業としてのアイコン的な働きを担える構造計画を行いました。空間構成・工期・発信性等において構造的特性を最大限発揮させる建築計画を目指しました。
[株式会社遠藤建築アトリエ代表取締役 遠藤 謙一良]