建築物は、用途により、企画、設計を経て建築され、その機能を満足するように、維持管理されながら利用され、最終的にはその役目を終え解体されます。
ライフサイクルコストについてのNTTファシリティーズの調査資料によりますと、メンテナンスにかかる費用は、建築物の設計から解体までのライフサイクルコスト全体の約70%程度ということで、その比率の大きいことに驚かされます。
また、木質系建築物を現状より耐久性を向上することにより、二酸化炭素の固定化を長くし、地球温暖化防止の一助にしようということも、推進されています。このように、メンテナンスということは、重要な課題といえます。
大規模施設は、住宅などと異なり、不特定の人々が利用する公共建築物が多く、そのメンテナンスも、木造以外の他の構造の大規模施設と同様なことになります。
設計上の注意点は、メンテナンス、清掃などを容易にするために、上部につけられる照明器具は移動できるようにしたり、窓は、手がとどくように配慮したりすることです。また、維持作業回数が少なくなるような設計上の配慮も必要になります。
以下に、夏の期間だけテント等で覆い、それ以外の期間には、テントを取り払う「簡易プール」を例にとり、木質構造特有の設計上の配慮すべき箇所について、若干コメントします。
「簡易プール」は用途上、夏にテントで覆われると室内気温があがり、プールの水から水蒸気が発生し、かなりの多湿状態になります。そして、夜になり気温が下がると、結露する状態になります。
また、プールとして使用しない時期は、テント等を取り払うため、フレームは外気にさらされることになり、木材にとってかなり厳しい環境です。
このような、厳しい環境にさらされる構造用集成材フレームの部位毎に、その設計上の注意点を述べます。
脚部に対する配慮
テント等で覆われた時などに発生する結露水や、雨のために、フレームの脚部に水が溜まるのは避けられないので、使用する接合金属は「さび」に対しての配慮が必要です。亜鉛溶融メッキをしたり、さらにその上からフッソ樹脂塗料を塗布したりします。
また、木材の木口からは水が浸入し易いため、特に念入りに塗布し、水の浸入に対しての性能をアップしておくことも重要です。
さらに、木材と水が接する時間を短くするために、脚部金物の形状を二重底にしたり、水勾配を設けたりすることも有効です。
目切れ部の配慮
フレームに辺断面を用いると、「目切れ」が生じる場合があります。
この「目切れ」の部分は先端が鋭角になり、接着剥離が起きやすい部分であると共に、水分を吸い込み易い木口面が現れる部分です。
この部分は、室内環境であっても塗装などの処理をしないと、木口割れが生じる可能性大きい部分であり、まして外部環境では、塗装だけの処理ではこころもとなく、「カバーボード」と称する板を、接着剤併用の釘、木ねじなどを使用して、留めつけることが必要です。
さらに「カバーボード」と「目切れ」の部分は接着剤併用ですが、開く可能性があるので、水が浸入しないようにシールしたほうがベターです。
梁受け金具の配慮
梁受け金具も接合金具と同様に水が滞ることが少なくなるように、水抜きの処理をする必要があります。
塗装面の配慮
木材を水、光から保護するために、塗膜を作ったり、防腐塗料を塗布したりするわけですが、建物の立地条件などから、部位毎にその仕様をを変えることも効果があります。例えば、南に面する部材は、北面に比べて塗装面の性能が早く低下するため、南面の部材の塗装回数を北面より増やしておくとかの処理をしておくことです。
建築部材は厳しい環境にさらされるわけであり、完璧な材料などありえない前提に立つと、基本にもどり、「かしこい」使い方をしたいものです。
■木材の変色・汚染と防除法
変色・汚染の種類 | 発生要因 | 発生しやすい樹種 | 予防法 | 除去法 | |
化 学 汚 染 |
金属汚染 (とくに鉄塩) |
・タンニン、フェノール性成分と鉄塩との反応により生じる ・水分の存在必要 ・酸性側ほど強い |
スギ、ミズナラ、クルミ、ベイマツ | ・材を乾燥する ・鉄との接触を避ける |
・3%しゅう酸塗布 ・5%次亜りん酸塗布 |
酸性汚染 | ・木材抽出成分と酸との反応により生ずる(しゅう酸、塩酸のケースが多い) | ブナ、アカマツ、スギベイマツ、ヒノキ、イタヤ | ・材を乾燥する ・酸との接触を避ける ・尿素樹脂による汚染 →酸ビ樹脂を用いる ・しゅう酸処理後水洗いを十分に行う |
・2〜5%過酸化水素(pH8〜10)塗布 ・1〜10%亜塩素酸ナトリウ ム(pH5)塗布 |
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アルカリ汚染 | ・木材抽出成分とアルカリとの反応により生じる ・アルカリ側ほど強い |
ブナ、スギ、ミズナラ、イタヤ、クルミ、ベイマツ | ・木材を乾燥する ・アルカリとの接触を避ける |
・2〜10%過酸化水素(pH7)塗布 ・汚染が弱い場合、しゅう酸、次亜りん酸塗布でも可 |
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生 物 汚 染 |
変色菌 | ・青変菌、褐変菌、緑変菌による侵害 | エゾマツ辺材、ブナ、シナノキ、ラミン | ・菌の生育条件(温度、水分、酸素)を阻害する | ・3〜10%次亜塩素酸ナトリウム又は亜塩素酸ナトリウムに浸す |
カビ | ・菌糸又は胞子自体の色による ・菌が分泌する酸化酵素による |
ミズナラ、カラマツ、ほかほとんどの樹種 | ・菌の生育条件(温度、水分、酸素)を阻害する | ・削り落とす ・3〜10%次亜鉛素酸ナトリウムに浸す又は 塗布 |
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そ の 他 |
光による変色 | ・紫外線と酸素により、木材中にラジカルが生じ、着色物質が生成する | トドマツ、カラマツ、シウリザクラ、ベイスギ、ベイマツ | ・紫外線、酸素をしゃ断する ・変色に関与する構造を化学的に変換する |
・変色汚染の程度により、2〜10%過酸化水素、1〜10%亜塩素酸ナトリウムによる塗布又は浸す |
酸化による変色 | ・空気との接触による一般酸化 | スギ(黒心)、シナノキ(オレンジステイン)、トドマツ辺材 | ・酸素の活性化を阻害する | ||
温度、湿度による変色 木材成分の流動濃縮による汚染 |
・熱変質、加水分解による ・材内の水分移動に伴い、抽出物が流動して部分的に濃縮する |